泌尿器科

診療科について

地域がん診療連携拠点病院として尿路性器悪性腫瘍の診療に注力

 

累計1,400件以上のロボット支援腹腔鏡下手術を実施

当科は、尿路性器悪性腫瘍に対するロボット支援腹腔鏡下手術を他施設に先駆けて実施開始しました。近隣医療機関から悪性腫瘍患者さんを多数紹介いただいており、ロボット支援腹腔鏡下手術の累計実績(2023年5月まで)は全症例合わせて1,400件以上に上ります。

ロボット支援腹腔鏡下手術の最大のメリットは、手術の侵襲性が低いことです。術創が小さく、出血量も少なく抑えられるため、高齢の方にも適応できます。さらに、従来の手術で発生しやすかった腸閉塞などの術後合併症の発症率も抑えることが可能です。こうしたことから術後の回復が従来よりも早く、当科でロボット支援腹腔鏡下手術を行った場合の平均入院日数は、病気にもよりますが平均5~7日間程度と全国的にも非常に短期間であり、早期退院が期待できます。
このようなメリットを有するロボット支援腹腔鏡下手術を積極的に取り入れている点が、当科の最大の特長であり強みです。

また、他地域や他院でお困りの症例があれば積極的に受け入れ、治療に取り組んでいきます。当院は地域がん診療連携拠点病院の指定を受けており、近隣地区の医療機関の泌尿器科と密接な連携体制を築いているため、多数のがん患者さんの紹介を受けることが可能となっています。当科で実施可能な治療法は手術のみならず、症例によっては薬物療法や緩和治療などを行い、一人ひとりの患者さんの助けになるよう努めて参ります。
どのような疾患においても原則的に院内で治療完遂できるよう診療に臨みますが、対応が難しい症例は、大学病院とも連携しながら治療にあたります。一方で良性疾患診療に関しては周辺医療機関との間で役割分担と連携を図り、かかりつけ医の支援および地域医療の充実に貢献できる態勢を構築していきたいと考えております。

新たに保険承認されたロボット支援腹腔鏡下手術を即座に開始

ダビンチを用いることで、執刀医はあたかも患者さんの体腔内に顔を入れて顕微鏡手術をしているような感覚で手術を行うことができます。
道内では2011年8月に当院が初めて機器を導入し、2011年11月10日に初症例を施行しました。2012年4月に保険診療の適用となってから順調に症例を重ね、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術はこれまでに950症例以上を施行しています。
2016年4月から腎がんに対する腎部分切除術にも保険適用拡大が承認されました。当科では、これまでの実績により即時施設基準認可を得ることができたため、ただちに保険診療でのロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術を開始しました。また、2017年よりさらに進歩した新規機種“ダビンチXi”を導入し順調に症例を重ねています。
前立腺がん、腎がんに加え、2018年度から新たにロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術が保険適用となりました。当科では速やかに施設基準を満たし、2018年4月より保険適用下で当該手術を開始しています。いずれも従来の開腹手術と比較し出血量の減少、重症(G3以上)合併症の減少が報告されておりますが、当科のこれまでの治療成績を振り返ってみてもそのメリットは明らかです。
また、近年新たに保険適用となったロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術、ロボット支援腹腔鏡下仙骨腟固定術の症例を積み重ねており、2022年度からはロボット支援腹腔鏡下腎(尿管)全摘除術も導入されております。

このように、近年急速に泌尿器科領域ではロボット支援腹腔鏡下手術の保険適用が拡大しており、当科でもより幅広い症例に対して当該手術を行うことが可能となりました。手術の施行にあたっては、安全性を確保するために執刀医やスタッフがチームを結成して技術トレーニングを重ねることが必要で、執刀医は所定の認定ライセンスを取得していることが求められます。当科には腹腔鏡技術認定医が在籍し、確かな技術で手術を施行します。そのため確実な腫瘍制御効果はもとより、出血量の少なさ、術後疼痛の少なさ、入院期間の短縮、術後尿失禁の少なさなど患者QOLのあらゆる面で明らかに従来の開腹手術を凌駕する成績を出しており、期待どおりの患者満足度をいただくことができています。

前立腺がんにおける手術・化学療法

前立腺がん手術は、現在までに1,000症例以上を積み重ねて道内随一の実績を持つ、当科診療の基幹です。最近では、局所進行がん(T3以上)またはオリゴメタスタシス(微小リンパ節転移、骨転移)に対しても集学的治療の一環として、積極的にロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術を行っています。術前・術後のホルモン療法やサルベージ放射線照射などを組み合わせ、集学的治療を行うことでより良好なQOLおよび生存率改善を目指したいと考えています。
一方、全身転移を有する前立腺がんでは、内分泌抵抗性となって以後、治療に難渋することが多く、去勢抵抗性前立腺がんの治療手段の確立と骨転移・骨関連事象(SRE)の制御が積年の課題でした。しかし、最近の薬物療法の進歩によりエンザルタミドやアビラテロンに加え、アパルタミドやダロルタミドという新規内分泌療法薬が相次いで臨床使用可能となりました。昨今は、ドセタキセルやカバジタキセルといった新しいがん化学療法の進歩があり、去勢抵抗性前立腺がんの予後は大幅な改善が得られています。さらにはBRCA遺伝子の変異があれば、オラパリブが使用可能となり前立腺がん診療にもコンパニオン診断が行われる時代となってきました。

腎がんにおける手術・化学療法

腹腔鏡下手術が腎がんおよび副腎腫瘍の標準術式として定着する一方、小径で早期の症例に対しては腎部分切除術の可能性を常に検討し、ネフロンを可及的に温存して長期的な残存腎機能の確保に配慮しながら、がんの根治性も両立させることを基本方針としています。当科では、腎細胞がんに対するロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術、ロボット支援腹腔鏡下根治的腎摘除術などを施行しており、順調に症例を積み重ねています。腎部分切除を通常の腹腔鏡下手術で行うのは難易度が高いのですが、ロボット支援で行うことにより確実な腫瘍切除と、短い腎阻血時間による腎機能温存を実現することができます。

また、転移のある進行性腎がんの治療法は、2007年頃まではインターフェロンなどのサイトカイン療法しか方策がありませんでしたが、ここ10年で登場してきた新たな分子標的薬は進行性腎がんの治療Strategyを一新し、生存期間の延長とQOLの改善がもたらされています。さらに近年、新たな薬物治療として免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ)が保険収載され、血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が認可されるなど、腎がんの薬物療法の発展は目覚ましいものがあります。

膀胱がんにおける手術・化学療法

可能な限り膀胱温存を図りながら根治性を追求することを基本に、その前提となる内視鏡手術である経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)の精度向上に努めています。また、BCGや抗がん薬の膀注療法を適切に行うことで再発・進展をできる限り抑えるようにしております。
一方、浸潤がんのため膀胱全摘除術を余儀なくされた場合には、可能な限りQOLを追求した尿路変向を考慮することとし、安定した回腸導管や自排尿が可能な代用膀胱の作成にも積極的に取り組んでいます。いずれの尿路変向の方法においても、術後の患者さんの生活を支持・援助していく“ストーマリハビリテーション”は大変重要で、この分野では皮膚・排泄ケア認定看護師を中心としたチームが活動しています。また、ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術を行うことでより出血量の低下、重症合併症の低下を目指しています。
2022年度より、上部尿路の尿路上皮がんである腎盂尿管がんについてもロボット支援腎尿管全摘除術が保険適用となり、より低侵襲で患者さんにやさしい手術が行えるようになりました。この術式では従来の手術で必要であった下部尿管処理の際の術創が不要です。

転移が進行した尿路上皮がんの患者さんに対しては、ゲムシタビンとシスプラチンを用いた化学療法(GC療法)が一次治療、免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)が二次治療の標準治療となっております。近年では一次治療が奏功したケースに対し、アベルマブが維持療法として適応となりました。また、抗体複合薬であるエンホルツマブベドチンが三次治療として保険適用となり、尿路上皮がんの薬物治療もsequentialな治療を考慮して行っていく時代となっております。

“MIT-CapNet”構築による前立腺がん検診(PSA検診)の催行

日本泌尿器科学会は、適切な前立腺がんPSA検診の催行を呼びかけています。一方で前立腺がん検診の実施と遂行においては、過剰診断や生検の合併症などの不利益も存在することが明らかになっており、検診希望者に対して利益と不利益を十分に伝え、それぞれの状況に応じて適切な対応を提供することが求められています。

MIT-CapNetとは、MIT(宮の沢・石狩・手稲)、Cap(前立腺がん)ネットワークのことで、当科を含めたこの地域の泌尿器科を専門とする医師が連携し、前立腺がんの患者さんの早期発見と適切な治療へのプロセスを円滑に推進するためのネットワークです。PSA異常値を示した患者さんの受け入れから生検と診断、精査、治療まで分担してスムーズに対応できるようなクリニカルパスを構築しております。

2023年5月現在、MIT-CapNetに参加し泌尿器科を専門とする医師が診療を行っている医療機関は下記の8施設です。

・ていね泌尿器科
・宮の沢腎泌尿器科クリニック
・琴似腎臓内科・泌尿器科
・石狩病院
・ていね駅前泌尿器科
・中田泌尿器科病院
・手稲前田腎泌尿器科
・東区役所前泌尿器科・内科

これらの医療機関は当科と協働して受け入れ態勢を整えていますので、一般診療を行っている提携医療機関の先生方がPSA異常値を示す患者さんを見つけられた際には、それぞれお手近の上記泌尿器科医療機関、または当科にご相談、ご紹介をいただければ幸いです。

なお、ロボット支援腹腔鏡下手術の適応症例の多くはこうした提携医療機関からご紹介いただいておりますが、札幌市外の医療機関からも当科での治療を希望される患者さんを紹介いただき、受け入れるケースもあります。提携外医療機関の先生方におかれましても、お困りの場合はまずご相談ください。

難治性患者に対するがん遺伝子パネル検査

がん発生に関わる複数の遺伝子変異を患者さんごとに調べるがん遺伝子パネル検査は、2019年6月に健康保険の適用となりました。
当院は2020年1月にがんゲノム医療連携病院の指定を受け、北海道大学病院との連携体制のもとで同年7月よりオンコロジーセンターがんゲノム診療室の稼動を開始しました。当科においても、残された標準治療が限られてきたタイミングで、新たな治療ができないか検討するためにがん遺伝子パネル検査の適応を考慮することが一般的となってきています。以前は、実施には組織検体の採取が必要でしたが、2021年8月に血液での検査も保険適用となり、検査へのハードルは低くなっております。BRCA遺伝子の変異があれば、オラパリブが使用可能となる前立腺がんや、いまだに予後不良な尿路上皮がんに対しては特に力を発揮する医療かと思われます。当科では標準治療が困難となったものの、治療を継続したいという患者さんに本検査をすすめています。

(文責:菊地 央)

対象疾患

尿路性器悪性腫瘍(前立腺がん、膀胱がん、腎がん、腎盂尿管がん、精巣腫瘍、副腎腫瘍など)、尿路結石症、前立腺肥大症、神経因性膀胱、女性尿失禁(女性泌尿器科)、膀胱瘤、尿路感染症、小児泌尿器疾患、副腎疾患、腎移植

特殊医療機器

  • ダビンチ Xi

    ダビンチ Xi

  • Dornier Medilas H UroPulse(尿路結石破砕YAGレーザー装置)

    Dornier Medilas H UroPulse(尿路結石破砕YAGレーザー装置)

診療科データ

実績

腹腔鏡下手術支援ロボット“ダビンチ”を使用したロボット手術の累計

  2023年5月まで
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術 1,041
ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術 251
ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術 88
ロボット支援腹腔鏡下腎摘除術 10
ロボット支援腹腔鏡下腎尿管摘除術 21
ロボット支援腹腔鏡下仙骨腟固定術 20
ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術 10

手術件数内訳

  2023年1月~12月
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術 89
ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術 14
開腹膀胱全摘除術 1
ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術 39
腹腔鏡下腎摘除術 14
ロボット支援腹腔鏡下腎摘除術 5
開腹腎摘除術 1
腹腔鏡下副腎摘除術 2
腹腔鏡下腎尿管摘除術 5
ロボット支援腹腔鏡下腎尿管摘除術 26
ロボット支援腹腔鏡下仙骨腟固定術 1
ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術 3
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT) 160
経直腸的前立腺生検(TRPB) 122
経尿道的前立腺切除術(TURP) 5
経尿道的尿路結石砕石術(f-TUL) 5
対外衝撃波結石砕石術(ESWL) 1
経尿道的膀胱結石砕石術(TUVL) 7
尿管鏡検査 39
精巣固定術 1
水圧拡張術 2
陰嚢水腫根治術 8
除睾術 15

実施中の治験・臨床研究

過去2年間に尿路感染症がある60歳以上の成人を対象にExPEC9Vを接種したときの侵襲性腸管外病原性大腸菌感染症の予防における有効性、安全性及び免疫原性を評価するランダム化、二重盲検、プラセボ対照、多施設共同、第3相試験

https://www.keijinkai.com/teine/wpadmin/wp-content/uploads/2023/01/fix_hp_Ver.3-20221202.pdf

学会発表・講演(直近2年間)

3件

国内学会

2件

地方発表会

外来

日/祝
08:40-17:00 - -

午前

  • 1診
  • 2診
  • 3診
-
相澤
-
下田
細川
-
小﨑
柏木
-
-
-
-
下田
相澤
小﨑
-
-
-
-
-
-

午後

  • 1診
  • 2診
  • 3診
-
-
-
下田
細川
-
-
柏木
-
-
柏木
-
相澤
小﨑
-
-
-
-
-
-
-
  • 紹介制・事前予約制です。

所属医師

  • 医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院

    泌尿器科 主任部長

    下田 直彦NAOHIKO SHIMODA

    診療科・専門
    -
    資格・学会
    日本泌尿器科学会泌尿器科専門医
    他所属・認定
    -
  • 医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院

    泌尿器科 医長

    相澤 翔吾SHOGO AIZAWA

    診療科・専門
    泌尿器科/-
    資格・学会
    日本泌尿器科学会泌尿器科専門医
    他所属・認定
    -
  • 医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院

    医長

    小﨑 成昭NARIAKI OZAKI

    診療科・専門
    -
    資格・学会
    日本泌尿器科学会泌尿器科専門医
    他所属・認定
    がん治療に携わる医師を対象とした緩和ケアに関する研修終了
  • 北海道大学病院

    専攻医

    細川 智加CHIKA HOSOKAWA

    診療科・専門
    -
    資格・学会
    -
    他所属・認定
    -
  • 医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院

    嘱託常勤医師

    柏木 明AKIRA KASHIWAGI

    診療科・専門
    泌尿器科/泌尿器悪性腫瘍、鏡視下手術、ロボット手術
    資格・学会
    日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医/日本がん治療認定医機構がん治療認定医
    他所属・認定
    日本泌尿器科学会 泌尿器腹腔鏡手術技術認定医/ロボット支援鏡視下手術認定資格 /日本泌尿器内視鏡学会 ロボット支援手術プロクター認定医/がん治療に携わる医師を対象とした緩和ケアに関する研修修了
目次
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