腎臓内科
診療科について
ポイント
病診連携によるつながりを大切に、腎疾患全般に対して高度な医療を提供
腎臓内科は患者さん自身が選んで来院することがほとんどない診療科です。かかりつけ医の先生方による紹介や他科との連携がなければ患者さんが当科にたどり着くことは基本的にありませんので、病診連携や診療科連携によるつながりを大切にしながら日々の診療を行っています。
当科では腎疾患全般において高度な医療を提供するべく、以下の3点を診療理念に掲げ、診療にあたっています。
1つ目は、「腎臓病を早期に診断し適切な治療によって透析療法を回避することに全力を注ぐ」ことです。
IgA腎症や急速進行性腎炎などの腎臓病は“最終的には透析療法がある”との考えもあってか、これまで適切な診断・治療があまり重視されてきませんでした。しかし、近年では早期の診断・的確な治療によって腎機能を維持し、透析療法を回避できるようになってきました。当科でも、初期の段階で腎疾患を発見し、地域の先生方と病診連携を行うことを目標とした診療を行っております。
無症状に進行することも多い腎臓病ですが、現在は健診で尿検査が実施されているため、蛋白尿や血尿は早期発見が可能です。健診時の尿異常を軽視せずに一度受診していただき、必要な場合は早期に適切な治療につなげていきたいと考えております。
当院は北海道内で数多く腎生検を実施している施設の1つです。これは地域の先生方から腎臓病を早い段階で紹介していただくことが比較的多く、早期に医療介入ができているという証でもあります。今後も地域の先生方には尿検査によるスクリーニングを積極的に行っていただき、異常が認められた場合は当科にご紹介いただければと思っております。
2つ目は、「腎臓病に高率に合併し予後やQOLを左右する循環器疾患の予防・治療を実践する」ことです。腎臓病は循環器疾患の強い危険因子だと世界的に注目されており、腎臓の異常は心臓にも影響を及ぼすことが分かっています。当科のスタッフは循環器疾患の診療にも精通し、循環器科と連携しながら腎臓病に合併する循環器疾患の予防や治療を実践しております。
3つ目は、「透析が回避できない場合には安全で質の高い透析療法を提供する」ことです。さまざまな治療を行っても、残念ながら透析治療を避けられない患者さんがいらっしゃいます。当科では透析治療が必要となった患者さんには安全で質の高い透析療法を提供し、管理が難しい維持透析や合併症にも対応可能です。さらに、透析治療に伴う症状や予後に関わる循環器疾患の治療にも注力しております。
当科に所属している医師3人が、日本腎臓学会専門医(うち2人は指導医)、日本透析医学会専門医(うち2人は指導医)です(2024年3月時点)。年間450例以上の入院患者さんに加えて豊富な臨床例を有するため、診断精度・治療効果の向上を目指した研修が可能であり、臨床研究のサポート体制も整っております。北海道においては腎臓内科医が不足していますが、腎臓内科に興味を持っていただける研修医の先生には手厚く指導を行い、地域の医療に貢献できればと思っています。
実施している治療・検査
IgA腎症
IgA腎症は日本における慢性腎炎ではもっとも多い病気です。また、IgA腎症と診断されてから20年後には、約40%の患者さんが腎機能悪化によって透析治療に至るとされています。
昨今、IgA腎症に対する扁摘パルス療法(扁桃摘出術とステロイドパルスを併用した療法)が良好な治療効果を示しており、腎機能が低下する前の発症早期に実施するとより効果が高いことが分かっています。
当科では、年間94件と北海道内でも最多の規模で腎生検を実施しています(2022年)。そのため、IgA腎症の症例数も必然的に多くなりますが、診断がついた症例に対して扁摘パルス療法を積極的に行い、良好な成績を収めております。
ネフローゼ症候群
原発性ネフローゼ・悪性疾患などに続発したネフローゼ症候群は、早期の診断と治療が生命予後を左右するため注意しなければなりません。
近年は患者層が高齢化しており、免疫抑制薬の使用期間をできるだけ短くするべく断続的な使用を進めています。また、難治性ネフローゼにおいては、LDLアフェレーシスによる寛解導入とリツキシマブによる再発抑制療法を積極的に行っております。
急速進行性糸球体腎炎
特徴的な腎症状に乏しく、尿潜血や血清クレアチニンの測定で初めて分かることが多い病気です。治療のガイドラインも整備されましたが、発熱、CRP高値、尿異常といった所見から尿路感染症と診断され、抗菌薬を投与されるケースも少なくありません。
原因不明の発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少などの消耗性疾患を疑う高齢の方をみたら、この病気を念頭に尿所見を確認していただきたいと思います。急激な腎障害と尿異常を認めた場合は速やかにご紹介ください。
多発性嚢胞腎
常染色体優性多発性嚢胞腎は、透析導入の原因疾患のうち4番目に多い病気です。遺伝性の病気ですが、家族歴がなくても発症して下の世代に遺伝するde novo症例も少なくありません。
以前は特別な治療法がなく、60歳前後で末期腎不全に至る症例が多くありました。しかし、現在ではトルバプタン療法が確立して早期治療が可能となり、腎予後の延長が期待できるようになりました。当科では多発性嚢胞腎の診断、特定疾患の申請、短期入院下でのトルバプタン療法の導入を行っております。
慢性腎臓病(CKD)
慢性腎臓病(CKD)は、末期腎不全だけでなく循環器疾患の危険因子だと明らかにされています。早期からの治療介入は腎機能保持、心血管イベントの予防においても重要です。
当院では、透析治療を行う前段階から食事療法や降圧療法に取り組む保存期CKD教育入院を行っています。糖尿病性腎症、腎硬化症、慢性糸球体腎炎などの腎不全の原因にかかわらず効果があり、腎不全の進行と合併症の抑制が期待できるプログラムです。
腎代替療法の提示と選択
末期腎不全に至った場合、腎機能に替わって生命を維持するために必要な腎代替療法を患者さん自身に選択していただきます。選択肢としては、血液透析、腹膜透析、腎移植の3種類の方法があります。
それぞれの治療法の概要、メリット、デメリットをご説明したうえで、全国の現状と同様に9割以上の患者さんが血液透析を選択されています。腎移植を希望される場合は、市立札幌病院や札幌医科大学附属病院など腎移植の実績のある病院を紹介しております。
バスキュラーアクセスの作成と修復
血液透析を受ける患者さんにとって、バスキュラーアクセスは極めて重要です。当院では自己血管を用いた標準的な内シャント作成のほか、血管に乏しい症例では人工血管を用いた内シャント作成を行っております。さらに超高齢者や心不全患者など、内シャント作成が困難な症例に対する長期留置用カフ型カテーテルの挿入や、シャント不全に対するカテーテル治療(シャントPTA)にも対応しております。
管理が難しい透析・外来維持透析
当院は急性期病院であるため、緊急入院した患者さんや高度医療が必要な患者さんに対する透析管理は大きな使命です。市内では透析患者さんの緊急入院や高度医療を行っている総合病院が非常に少ないため、透析管理が難しい患者さんが集まる傾向にあります。2023年7月現在、当院の腎臓内科所属の医師3人全員が日本透析医学会 透析専門医であり、専門知識を生かして透析管理が難しい重篤な患者さんにも対応しております。
また、外来維持透析では、患者さん一人ひとりがQOLの高い透析生活を送れるような透析処方や内服薬の調整、食事指導など、きめの細かい管理を心がけております。
かかりつけの先生方へのお願い
高血圧症や糖尿病などの生活習慣病の患者さんを診察されている先生方には、大きな合併症がない場合でも尿検査や血清クレアチニンの測定を行っていただきたいと思っています。年に1回でも構いません。また、健診で尿検査での異常を指摘されて受診する若い患者さんは、早期治療が重要な腎疾患の可能性があります。具体的にはIgA腎症などの糸球体腎炎です。
腎疾患は初期対応が重要なので、軽度の異常であっても一度早めにご紹介いただくのがよいと思います。「紹介する症例やタイミングの判断に迷う」という声をよく耳にしますが、迷われた際は日本腎臓病学会作成の「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」をご確認いただければと思います。紹介基準に該当するか判断がつかず迷った場合はご紹介ください。
当院では全ての病期の診察を行っていますが、双方向性病診連携の充実を図るべく、早期の患者さんにおいては確定診断・治療方針の決定・インフォームドコンセントを行ったうえで、紹介元へお戻しすることを心がけております。また、腎臓専門医の定期診療が必要な症例においては、定期的な診療・投薬はかかりつけ医の先生にお願いし、当科では年に1~3回程度診療する“ダブル主治医制”とする場合もあります。重症化する前の段階で紹介を受け、紹介後、かかりつけの先生に診ていただくのが理想です。地域医療において腎疾患の早期発見・適切な治療を行うため、ご協力をお願い申し上げます。
腎疾患の双方向性病診連携
かかりつけ医 | 腎臓専門医 | かかりつけ医 | |
---|---|---|---|
検尿異常 | 検診後など | 腎生検 | 定期尿検査 |
腎炎・ネフローゼ | 浮腫 | 腎生検・ステロイド | 定期尿検査・降圧剤処方 |
糖尿病性腎症 | DM長期で 尿蛋白↑GFR↓ |
評価・IC | DM・CKD follow |
高血圧性腎硬化症 | HT長期でGFR↓ | 評価・IC | HT・CKD follow |
多発性嚢胞腎 | 見つけたら | トルバプタン | ケース・バイ・ケース |
軽症CKD | G3aまで | 評価・IC (腎生検) |
CKD follow |
保存期腎不全 | G3b-G4 | 教育入院 腎代替療法提示 |
CKD follow |
末期腎不全 | G5 | 腎代替療法提示 (透析など) |
透析病院へ |
対象疾患
腎臓病一般、蛋白尿、血尿、腎炎(急性・急速進行性・慢性)、ネフローゼ症候群、腎不全(急性・慢性)、高血圧症、糖尿病性腎症、電解質異常、透析療法(血液透析・腹膜透析)、透析療法の合併症
特殊医療機器
診療科データ
実績
入院状況(2020~2022年)
2021 | 2022 | 2023 | ||
---|---|---|---|---|
入院病名 | 例 | |||
IgA腎症 | 診断 | 26 | 38 | 36 |
治療 | 52 | 79 | 71 | |
IgA血管炎 | 4 | 1 | 1 | |
ANCA関連血管炎 | 2 | 16 | 9 | |
抗GBM抗体病 | 1 | 1 | 1 | |
尿細管間質性腎炎 | 1 | 8 | 6 | |
ループス腎炎 | 0 | 0 | 2 | |
その他の糸球体障害 | 14 | 9 | 12 | |
ネフローゼ症候群 | 微小変化型 | 21 | 17 | 26 |
膜性腎症 | 17 | 22 | 17 | |
巣状糸球体 硬化症 |
1 | 1 | 4 | |
その他 | 0 | 4 | 1 | |
微小糸球体変化 | 19 | 16 | 11 | |
急性腎障害・高カリウム血症 | 8 | 8 | 16 | |
常染色体優性多発性嚢胞腎 (トルバプタン療法) |
0 | 6 | 5 | |
保存期腎不全教育入院 | 38 | 41 | 50 | |
末期腎不全 | 血液透析 導入 |
49 | 53 | 59 |
腹膜透析 導入 |
0 | 2 | 1 | |
血液透析 合併症 |
111 | 84 | 69 | |
腹膜透析 合併症 |
0 | 1 | 3 | |
その他 | 21 | 55 | 78 | |
計 | 411 | 462 | 478 |
2021 | 2022 | 2023 | ||
---|---|---|---|---|
手技 | 件数 | |||
腎生検 | 75 | 94 | 93 | |
シャント造設術 | 112 | 81 | 114 | |
シャントPTA | 81 | 55 | 66 |
入院透析患者
2021 | 2022 | 2023 | ||
---|---|---|---|---|
入院理由 | 患者数 | |||
腎臓内科 | 透析導入 | 75 | 75 | 86 |
シャント不全 | 71 | 58 | 69 | |
その他 | - | - | 33 | |
消化器内科 | 36 | 29 | 64 | |
循環器内科 | 74 | 78 | 69 | |
眼科 | 20 | 11 | 27 | |
整形外科 | 32 | 40 | 70 | |
総合内科 | 15 | 2 | 2 | |
脳神経外科/脳神経内科 | 12 | 17 | 31 | |
心臓血管外科 | 16 | 14 | 32 | |
外科/呼吸器外科 | 25 | 23 | 25 | |
泌尿器科 | 12 | 12 | 9 | |
耳鼻科 | 3 | 1 | 6 | |
呼吸器内科 | 6 | 4 | 8 | |
血液内科 | 3 | 1 | 3 | |
救急科 | 11 | 7 | 10 | |
その他 | 15 | 14 | 12 | |
計 | 425 | 389 | 556 | |
入院中死亡 | 20 | 18 | 20 | |
透析離脱 | 11 | 17 | 22 |
紹介元医療機関
累計73件
学術論文(査読のあるもの)(2023年1月〜12月)
学会・講演(2023年1月〜12月)
外来
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
---|---|---|---|---|---|
08:40-17:00 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
午前
|
前田 | 滝沢 | 茂庭 | - | 担当医 |
午後
|
- | - | - | - | - |
専門外来
腎臓病外来
- 血尿・蛋白尿の診断
- 各種の原発性腎疾患(急性糸球体腎炎、IgA腎症、慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎、間質性腎炎など)
- 腎障害を合併する病気(高血圧症、糖尿病、膠原病など)
- ネフローゼ症候群、腎不全(保存期)の内科的治療(食事療法、薬物療法、生活指導)
- 腎代替療法の提示、選択
血液透析外来
血液透析の実施
CAPD外来
- 腹膜透析(CAPD)患者の管理
所属医師
-
医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院
特任院長補佐(労務管理責任者)/泌尿器腎センター センター長
滝沢 英毅HIDEKI TAKIZAWA
- 診療科・専門
- 腎臓内科/腎臓病学一般、バスキュラーアクセス
- 資格・学会
- 医学博士/日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医/日本腎臓学会腎臓専門医・腎臓指導医/日本循環器学会循環器専門医/日本高血圧学会高血圧専門医・高血圧指導医・評議員/日本透析医学会透析専門医・透析指導医・評議員・VA血管内治療認定医/日本腎臓リハビリテーション学会腎臓リハビリテーション指導士
- 他所属・認定
- 札幌医科大学医学部臨床教授
-
医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院
院長補佐/腎臓内科 主任部長
茂庭 仁人NORIHITO MONIWA
- 診療科・専門
- 腎臓内科/腎臓病学一般、高血圧
- 資格・学会
- 医学博士/日本内科学会認定内科医・総合内科専門医/日本循環器学会循環器専門医/日本透析医学会透析専門医・透析指導医/日本高血圧学会高血圧専門医・高血圧指導医・評議員/日本腎臓学会腎臓専門医・腎臓指導医・評議員
- 他所属・認定
- 日本臨床倫理学会上級倫理認定士/多発性嚢胞腎協会PKD認定医/札幌医科大学医学部臨床教授
-
医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院
腎臓内科 部長/透析室 室長
前田 卓人TAKUTO MAEDA
- 診療科・専門
- 腎臓内科/腎臓、循環器
- 資格・学会
- 医学博士/日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医/日本腎臓学会腎臓専門医/日本透析医学会透析専門医/日本腎臓リハビリテーション学会認定腎臓リハビリテーション指導士
- 他所属・認定
- -
患者さんのご紹介方法
※1 希望医師、希望日時で予約をしてください。
※2 ご予約後、当院にて受付の上、「予約票」を送信いたしますので、「紹介状」と合わせて印刷して患者さんにお渡しください。